Introduction[]
Under the Blossoming Cherry Trees 1[]
これはこれは、美しいところだね
『桜の森の満開の下』……まさにその場所だな。で、自分達はその登場人物だと
俺たちは山賊に殺されるモブ……他に良い登場人物がいなかったとはいえ、あんまりじゃないか
俺はモブにしては存在感がありすぎる。これから戦うことになる敵に気づかれないといいけれど
ねえ、名もなき山賊の坂口くん？
はあー……知らん。気づかれるかもしれんし、そうじゃないかもしれん……
テンション低い！ どうしたんだ安吾……いつもはそんなんじゃないだろ
「その図太い精神やよし！ それでこそ堕落した人間だ」とかなんとか言うところだろ
まあまあ達治。坂口くんはきっと、この桜に影響されてしまっているんだ
…………
*leaves*
あ、待ちなよ坂口くん
*runs after Ango*
……無限に咲き誇っている桜、か。この場所なら不思議と納得してしまうな
Under the Blossoming Cherry Trees 2[]
『桜の森の満開の下』……恐いもの知らずの山賊が桜に翻弄される、という話だったね
ほら、冒頭から面白いよ……
「花の季節になると、旅人はみんな森の花の下で気が変になりました」だって
すごい設定だな……どこからツッコめばいいのやら
それだけじゃない。主人公である山賊が略奪して手に入れた女はとても残酷なんだ
そんな異形とすらいえる存在に翻弄される野卑な山賊の男
それらを圧倒するかのような存在感を放つ桜の木。スケールが大きいね
最後はすべてが桜と共に散ってしまうっていうのは、とても切ない終わり方だな
それでも、悲しくはないんだけど
桜は全てを超越してるんだ。とてつもなく大きな、人間の死すらちっぽけなものにするほどな
チッ…………………………
大丈夫かい？ 疲れているなら無理しないで帰るべきだよ
いや、そういうわけじゃない。問題ない……俺は正常だ
そう……なら止めないけれど
Under the Blossoming Cherry Trees 3[]
じゃあ、せっかくだから君の話も聞きたいな
坂口くんの話を読ませてもらったけど、独特の不思議な魅力があったよ
”女”と山賊は満開の桜の下で死んでしまうっていうところも俺好みだ
安吾の話はこういう急転直下なオチが多いよな
それも諸行無常って感じで……かといって、悲しいとは思わないんだよな
梶は「桜の木の下には死体が埋まっている」と言ったけど、それが恐い響きを持っていないのと似てる
美しいものと空虚なものは常に表裏一体だ。俺以外にもこの感覚がわかってくれる人がいるなんてね
ああ、綺麗なものの裏には虚しいものがある……
俺は美しいものを見ている時に心のどこかで感じる虚しさや悲しみを物語で描こうとしたんだ
よくわからんけど……安吾にも、山賊が感じているような孤独を感じることがあったのか？
……どうだろうな。そもそも人間は、どうしようもない孤独を抱えている……そういうもんだろ？
本来、孤独を恐れる必要はない。既にそこにあるものだから
だが、わかっていても恐がっちまう
だから書いたんだ
本来、孤独を恐れる必要はない……か
Under the Blossoming Cherry Trees 4[]
ねえ坂口くん。今の話、君が常々言っている堕落と何か関係があるのかな、と思ったけど、どう？
鋭いな……
俺だって孤独は恐い。孤独以外にも恐いもんはいっぱいあるが……
それらに打ち勝つにはどうすればいいか考えた結果、堕落に行き着いたわけだ
興味があるな。どうやったら堕落できるんだい？
そこなのか？ 俺には堕落ってもの自体がなんなのか解説してほしいんだけど
仕方ないな……じゃあ安吾流堕落術の一部を伝授してやろう
「毎日当たり前にやる」ことをひとつ、やめることだ。ちなみに俺の場合は部屋の掃除だ
やめて少し経つと、意外と不便じゃない、そもそもやらなくてもいいと感じるだろう
駄目人間の居直り論に聞こえるけど……というか、珍しくよく喋るな安吾
なに……ちょっとした気まぐれだ
ふむ、なるほど……そもそもやらなくていい、そう気づいた時には「堕落」しているわけだ
そうだ。世の中の普通に騙されてたら見えるもんも見えなくなる
気づかないうちに身に着けちまった常識を取っ払ってみたときに堕落の片鱗が見え……あっ！
どうした？
闇の女だ！！
*runs off*
えっ、何！ どこ行くんだよ安吾！
坂口くんはとてもエキセントリックだね
何いってんだ梶、追いかけるぞ！
Under the Blossoming Cherry Trees 5[]
*approaches the Taint*
おい、待て……！
フフフフフ……
チッ……やっぱりお前か。俺の不安を掻き立てやがって
どコへいク？ ここカラどコへ……
俺の書いたもののふりをして偉そうに……覚悟しろ
恐れるな。孤独を。堕ちることを……
俺は、偉大な落伍者になる男だ！
Under the Blossoming Cherry Trees Ending[]
*defeated, vanished*
女の姿は掻き消えてただ幾つかの花びらになっていました。
そして、その花びらを掻き分けようとした彼の手も彼の身体も
延した時にはもはや消えていました。
あとに花びらと、冷めたい虚空がはりつめているばかりでした。
おい安吾、大丈夫か？
あれ？
はあ。なんだよいきなり走ったりして！ また幻覚を見てたのか
確かに見たんだが……
……なにもないぞ。梶、見たか？
いいや。でも彼の瞳には確かに映ったのだろうね、美しい女が……
ふふ、よかったよ。物語のように女と一緒に消えてしまわないで
ちょっ、梶、恐いこと言うな。まあ……無事で良かったけど
はは、二人とも心配してくれてありがとな。もう大丈夫だ
あれ、元気になったのか
おうよ。なぜだか知らんが晴れやかな気分だ
よし、気を取り直して行くぞ！
*leaves*
だから先に行くなって！
*runs after Ango*
面白いなあ、坂口くんは…
*runs after Miyoshi and Ango*
桜の森の満開の下の秘密は誰にも今も分りません。
あるいは「孤独」というものであったかも知れません。
なぜなら、男はもはや孤独を怖れる必要がなかったのです。