Introduction[]
I believe you already are aware, but we will be having the writers collect these "distorted gears".
来たか。再び例の歯車による侵蝕が始まった
もう分かっているとは思うが、文豪たちにはこの「歪な歯車」を集めてもらうことになる
Were this book to be fully tainted, the ill effects will be unfathomable.
『当世書生気質』は文学において最も重要な本の一つだ
この本が侵蝕されてしまえば、その影響は計り知れないぞ……
Even so, the enemy's strength is impressive.
この歯車が意図的に作られたものか、そうでないのかもわかっていない
それなのに、敵は強大になるばかりだ
the day may be closer than we thought that the literature we've defended up until nyow will vanish.
言いにくいことだが、このまま大量の歯車を持つ侵蝕者が現れつづけるならば
これまで抑えられていた文学書の消失が再び起こる日も近いかもしれニャイな
くっ、厳しい戦いだな……せめてこの歯車の正体がわかれば……
それについてだが、歯車についてわかったことがある、後で改めて話したい
Chapter 1 - Masaoka Shiki & Cat[]
やあやあ、ネコさんよ、ここまでついてきたんだな。まだ名前はないのか?
……ここの書物について確認したいことがいくつかある
なんなのだこの世界は。随分古い書物のようだが……
お、その説明は俺に任せろ! この本は俺が学生だった頃に雑誌に連載されてたんだ
当時の学生みんな、この『当世書生気質』を楽しみにしてたわけ
お前が学生ということは相当昔だな。そんなに人気だったのか
なんせ俺たちの素の生活がそのままストーリー仕立ての小説になってたからな
留年の危機に死ぬほど勉強したり、親の仕送りが途絶えてアルバイト三昧になったり……
ふむ。館長のやつはそんな大衆的な書物を重要視しているのか……
そう思うだろ? その理由は、この大衆的な書物が一番最初の文学だからなんだ
あの人は「芸術性の高い小説」というものに「文学」という名前を初めて付けた
この『当世書生気質』はその最初の作品ってわけなんだよ
ふむ、名前は大事だ。名を与えることで初めて人と共有できるものになるからな
あ、名前といえば、ネコってのもどうかと思うんだわ俺。「吾輩号」とかどうだ
いらん、飼い猫感覚で名前をつけニャイでもらいたい
Chapter 2 - Natsume Souseki & Cat[]
夏目、お前にも話がある。この書物について知っていることを聞きたい
……仕事だ、報告に必要だからな。この書物の価値と侵蝕の影響範囲を知る必要がある
はい、いわゆる「文明開化」です、誰も彼もが背伸びしていた時代でした
Tsubouchi Shouyou, who saw what the western world was like, said that Japan should also embrace the free style of the novel.
文学においても同じです。
西洋の世界を見た彼、坪内逍遥はこの国にも自由な小説があっても良いと言ったのです
そうです。異論はあるかもしれませんが、この作品はこの国の文学の歴史の出発点と言えます
As he said, its influence can be said to be immeasurable.
この作品は、多くのものに影響を与えていましたからね
彼が影響が計り知れないといったのは、そういうことです
Chapter 3 - Mori Ougai & Cat[]
According to what Natsume Souseki said, that guy's works marked the start of Japanese literature, apparently...
そうだな……この書物の作者、坪内逍遥とはどのような人物だったのだ?
夏目漱石の話では、こいつの作品は文学の歴史の出発点ということだったが
The good guys would always win, and the villains would be punished. Ethical and trite plots...
……それまでの時代の小説は安っぽくワンパターンなものばかりだった
善は必ず勝ち、悪人は懲らしめられる。道徳的でお決まりの展開……
いや、『当世書生気質』もこの前時代的な域を超えていない。ご都合主義で通俗的な展開だ
……夏目漱石や正岡子規が言っていたことと違うが
However, the works he wrote never measured up to the ideals he championed.
……続けよう。坪内逍遥は小説を「絵画、音楽、詩歌とともに並ぶ芸術とする」と言った。
しかしそう言って彼が書いた作品は、自分で掲げた理想に見合っていなかったのだ
Nonetheless, he brought about dreams among people who looked up to those ideals of his, rather than through his works.
What do you think, is this enough of an answer for you?
そうだな。だが、作家は本来、言葉ではなく作品で評されるべきだろう
とはいえ、彼は作品というよりはむしろ、その理想によって多くの者に夢をもたらした
どうだ、質問の答えにはなったか
I took up a lot of time... Better get back to the report.
ああ、今までに聞いたものと違って少し混乱したが、おおむね満足だ
時間を取らせてしまったな……報告に戻ろう
(どうやら、この書物は「理想」や「夢」といった感情が大きく関わっているようだな……)
Chapter 4 - Masaoka Shiki & Mori Ougai & Natsume Souseki[]
Well, in my case it was the haiku.
夢がいっぱいだったよなあ。俺たちが新しい小説を創る! って
俺の場合は俳句だったわけだけど
正岡の場合は小説家になろうとしたはいいが、才能が無かったので俳句にしたんですよ
But when I read the critique he wrote for me, it said, this is no good, turn it into a haiku...
Ah, this is a secret!
はは、実は幸田さんに書いた小説を送ったこともあんですよ、「批評してください」って
でも書いてもらった批評を見て、こりゃ駄目だな、俳句にしよ……と
あ、秘密ですよ!
Is how I want to come off as.
お願いします。俺は俳句一筋、初志貫徹!
ということになってるんで!
Chapter 5 - Masaoka Shiki & Mori Ougai & Natsume Souseki[]
そうですね。戯れに書いた小説が、思いのほか評判が良かったことがきっかけです
虚子殿が書くように薦めたと聞いた
Well, I suppose it's one of those things where my dream came true because I didn't give up.
はい。もちろん、それ以前から小説を書いてみたいという思いはありました……
まあ、諦めなかったら夢がかなった、ということですね
全く、売れっ子作家になりやがって。そもそもだ、「俺が」虚子を紹介してやったんだぞ、感謝しろよな!
虚子君ならともかく君が偉ぶる理由はないでしょう、お断りです
そういえば、森さんは若いのに華々しく小説家デビューしていましたよね
いや……俺の話はいい。そんな自信を持って語るようなものではない
At that time, I exalted my ideals in search of true literature, but... After everything was said and done, it ended as a half-baked attempt.
……先ほど坪内殿のこの書を否定したが、俺も同じようなものだったということだ
俺はあの時、理想を掲げて真の文学を模索したが……結局、中途半端に終わってしまった
Chapter 6 - Masaoka Shiki & Mori Ougai & Natsume Souseki[]
俺は文学を創るという夢と、周囲に託された夢の間でずっと揺れ動いていた
……さすが国を背負っていた森さんの言葉は重みが違いますね
I was acutely aware of that fact. So that's why I gave up my dream of creating literature's first generation.
「やりたいこと」と「やるべきこと」は一致しないものだ……
その事を、俺は重々承知していた。だから、文学の最初の時代を創るという夢を諦めた
Fortunately... the thing we have to do now is both "What we want to do" and "What we must do", so there's nothing to deliberate over!
……まあ過ぎたことより今を見ましょう!
幸運なことに……俺たちは「したいこと」と「すべきこと」は同じです、何も悩む必要はないですよ!
そう考えると、若い時分のようにパッションが湧いてきませんか?
何言ってんだ夏目! 「若い時分」って、今だって若いぞ!
Talking About the Old Days I - Masaoka Shiki & Natsume Souseki[]
そういや、『当世書生気質』を読んでいたのは夏目と会った頃だったな。……懐かしいなあ、よく覚えているよ
I could go on all day about what a glutton you were that time.
学生の時代というものは、誰だって忘れがたいもの
僕だってこの頃の君の食い意地の張った話を上げれば枚挙にいとまがないよ
どうでもよくないだろう。いやだね、君はどれだけ僕を振り回していたかは忘れたのか
I'm so sad, where did that gentle you of that time go... Oh, how much you've changed!
夏目、お前やっぱり態度でかくなってないか?
俺は悲しいよ、あの頃のやさしいお前は一体どこに……こんなに変わっちまって!
僕が変わったのではなく、君があの頃から少しも変わらないというだけのことでは?
……そうだね、今のは僕も意地が悪かったかもしれないね
Talking About the Old Days II - Mori Ougai & Masaoka Shiki[]
そういえば森さんって、坪内さんと大喧嘩したことがありましたよね
「没理想論争」……文学についての論争に名前が付いたのはこれが初めてだったな
えーと……確か……文学を批評するのに理想が必要か? という話でしたよね
そうだ、確固たる自己がなければ批評し得ない。俺はそういう批判を彼にしたんだ
I was still immature at that time... That was all.
……言いたいことはわかるが、断じてそういう話ではない
あの頃の俺はただ未熟だった……それだけのことだ
……いらぬ詮索をしてしまったようですね、すみません。この話は終わりにしましょう
Talking About the Old Days III - Natsume Souseki & Mori Ougai[]
I can't help but feel vexed from being unable to take preemptive measures and having to clean up the mess afterwards.
そうだな……この本を浄化したとしても、この侵蝕現象自体が解決するわけではない
後手に周るしかないこの状況には歯痒い思いをしている
人々が自らの感情で築き上げてきたものを自覚のないまま壊すというのは、恐ろしいことです
漱石殿、あまり考えすぎるのは精神衛生上よくない。特にこの場所ではな
そうだ、漱石殿は真面目すぎる。少し肩の力を抜いたほうがいい
森さんに真面目と言われるとは……ご忠告ありがとうございます
Chance Meeting - Masaoka Shiki & Tsubouchi Shouyou & Natsume Souseki[]
I still feel fuzzy on my memories of whether to say "Nice to meet you" or "I feel bad for not contacting you earlier", but... I'll be in your care from now on.
君は子規君だね、それと漱石君
「初めまして」か、「ご無沙汰しています」かメモリーが曖昧ですが……これからお世話になりますね
いえいえ、こちらこそお目覚めのところ申し訳ないのですが、坪内さんの力をお借りしたいのです
...Now that I mention it, is Ougai-kun not around?
ええ、わかっていますよ。私にできることであれば喜んで協力します
……そういえば、鴎外君はいないのかな
坪内さんとは色々あったようですから、照れてるんじゃないですかね
はっはっは……では、後でこちらから挨拶することにしましょう
Cat's Report[]
I believe they will be found to have different powers this time, too.
ああ、この歪な歯車だが、得られる有碍書ごとに種類が異なるようだ
今回のものも違う力が込められているだろう
同じ負の感情でも、違う感情を刺激するということか?
わからん、今の技術ではこれ以上の分析は困難だと言える。しかし、我々は仮説を立てた
then the literature targeted by the Taints must hold some sort of clue. So in this case, it would be "Portraits of Contemporary Students."
歪な歯車がもたらす感情と侵蝕者の暴走に関連があるのであれば
侵蝕者が向かった文学書に手がかりがあるはずだ。今回の場合は『当世書生気質』だな
If we can figure out the background behind the books, we may be able to come closer to figuring out the true identity of the emotions brought about by the distorted gears.
確かに、侵蝕者が特定の有碍書に惹かれるのには理由があるはずだ
書物の背景がわかれば、歪な歯車がもたらす感情の正体に近づくことができるかもしれないな
だからお前たちにはこの本の詳細な情報をまとめておいて欲しい。吾輩も直接文豪に聞くつもりだが